2006年度 学士論文
近年,音響の分野では原音場の再現による音場再生が注目されており,その手法として多入力信号補正システムが挙げられる.この手法は対象として指定した点にのみ補正を行うように考慮されており,受聴者が移動する等の要因で制御を行う点と受聴点が異なった場合,受聴者に対して正しく音場が再現されない問題がある.この問題に対し,制御点を増加させることで制御点近傍での音場再生を行う手法が試みられたが,補正可能な範囲が拡大した代わりに従来法に比べて制御点での音場の再現精度が低下するという問題が発生した.本論文では従来提案されていた受聴者の移動に合わせて制御点も移動する手法について精度の検証を行い,その際発生した受聴者の移動距離に応じて再現精度の低下が起こる問題点について,移動距離に応じてフィルタの初期化を行うことによる解決法を提案している.提案手法と従来手法において受聴者の移動に対するシミュレーションを行い,それぞれの結果より提案手法の有効性について検証を行った.その結果,受聴者の移動に対する補正として提案手法は有効であるが,有効に働く範囲は環境によって異なることが確認できた.
スピーカから出力された音を聞く場合, スピーカから受聴者までの室内反響などの影響を消すことによって, 理論的には理想的な音を聞くことが可能となる. その手法として, 浜崎らにより2 チャネル-2 点制御系が提案された. このシステムでは, 2 つのスピーカを用いることにより音場再生が可能であることが示されている. 2 点制御系での大きな問題はクロストークと呼ばれる本来聴こえるべきでない音が観測されてしまうことである.本論文では, 2 チャネル-2 点制御系を用いた音場再生システムの再現精度向上を目的とし,補正を行うスピーカを用いてさらなるクロストーク成分の軽減とスピーカの位置によってどの程度変化するか検証している. 耳もとでの補正実験と実環境を想定した計算機シミュレーションの結果から, 補正したい音が軽減されていることを確認している.
近年,無線通信における通信速度の向上と電波利用の多様化による周波数帯域の需要増加に応えるため,これまであまり利用が進んでいなかったミリ波帯などの高周波数帯を利用した通信システムが注目されている.無線通信では,障害物に電波が反射することによって,いくつかの経路を通って受信機に到達するマルチパスと呼ばれる現象が発生するために,受信時に直接波と遅延波が位相が異なるまま合成され受信波形に非線形歪みが発生する.この現象はフェージングと呼ばれ,ディジタル無線通信において符号間干渉を生じさせるため大きな問題となる.フェージングへの対策として,現在,ダイバシティ,アダプティブアレイアンテナ,適応等化器などの方式が提案されている.この中の適応等化器はディジタル信号処理を用いた歪み補償であり,他の方式と併用することが可能であるという特徴がある.本研究では,ミリ波帯無線通信におけるマルチパスフェージングに対する適応等化器の有効性について検証を行っている.また,適応等化器とダイバシティの併用時における最適な構成を明らかにしている.
プロジェクト研究
画像をディジタル処理する際,符号化,伝送路誤りなどの影響によりゴマ塩雑音と呼ばれるインパルス性雑音が原画像に重畳してしまう場合がある.これらのインパルス性雑音の除去にはメディアンフィルタが有効であることが知られているが,原画像の再現性という点で問題点も指摘されている.このメディアンフィルタが抱える問題に対して,フィルタの適用条件を設定することで再現性を向上させる条件付きメディアンフィルタが提案され,現在,インパルス性雑音の除去として主として使われている.本研究では,条件付きメディアンフィルタに対するさらなる改善法として提案されたPSAフィルタに着目し,原画像の劣化状態によるフィルタの性能評価を行う.評価結果からPSAフィルタの主要パラメータであるしきい値は雑音の出現頻度,状態に関わらず決定可能であることが明らかになり,さらに条件によってはPSA フィルタの処理結果が従来の手法より悪化する場合があることも明らかになった.
我々が写真を撮影した際,撮影対象の手前に不要なオブジェクトがあるため,本来目的とするものを撮影できないことがある.この問題に対し,特徴抽出を用いて画像内の特定した遮へい物を除去する手法が提案されている[1]. 一方,画像に劣化がある場合,その劣化部分の周囲に残された情報から視覚システムとグレイレベルを応用した,劣化部分の補間方法が提案されている[2].これらの2つの手法を用いることで,画像の除去から復元までの一連のシステムを実装できる.復元方法については,先行研究により検証されている.そこで本研究では,2つの手法を一つのシステムとして実装するため,遮へい物の特徴を捉え,特徴抽出を用いて遮へい物を除去を行った.その結果,遮へい物や撮影対象を制限することで,除去の確認ができた.撮影対象が丸く円に近い物体で,遮へい物が円からより遠い形状になるほど有効性が増すと考えられる.しかし,撮影対象と遮へい物の形状が似ていたり,条件次第では有効性が得れないことを確認することができた.