2009年度 博士論文
2009年度 修士論文
近年,音響の分野では原音場の再現による音場再生が注目されており,その手法として信号補正システムが挙げられる.音場再生は,出力した音を受聴点で正確に再現することを目的としており,出力した音が受聴点に届くまでに受ける影響を補正フィルタを用いて除去する.しかしながら,受聴者が移動する環境においては,正しく音場再生が行われないという問題がある.この問題については,受聴者の位置それぞれにおいて個別の補正フィルタ係数を与えることで解決する方法が考えられている.過去の研究において,音源信号と観測用マイクロフォンの入力信号を用い,相互相関と適応フィルタにより推定した伝達特性のフィルタ係数から受聴者の位置を検出する方法を提案している.その手法においては,利用する音源を限定した状態において,受聴者の位置検出が可能であることが確認されている.しかしながら,音声信号のような非定常な信号を用いた場合において,位置検出の失敗が確認されている.本研究では,相互相関による位置検出の欠点を適応フィルタを用いることで補う手法を提案する.提案手法では,音源信号が小さい場合に起こる誤検出の対策として,相関係数が一定値以上である場合のみフィルタ係数の更新を行い,音声信号のような非定常な信号においても受聴者位置検出を可能にしている.提案手法による受聴者位置検出の性能評価により,音源が音声信号である場合においても,位置を特定するようなデバイスを用いることなく受聴者の位置検出が可能であることを確認している.
2009年度 学士論文
自動車内で音楽を聴く場合,エンジン音やロードノイズなどの騒音によってボリュームを大きくすることにより,音割れなどの非線形歪みが発生することがある.その主な原因として,車内の場合はホームオーディオのようにスピーカを理想的に設置することが困難であり,設置箇所がドアの鉄板部分など共振しやすい場所になってしまうことが挙げられる.非線形歪みを抑制する技術には,様々な制御法がある.音に関する既存の制御法は入力信号の振幅を平均化するよう制御を行うため,ダイナミックレンジが小さくなり,音にメリハリがなくなるという問題がある.また,周波数帯によって歪みが発生する音圧が異なるため,ある周波数帯だけに歪みが発生する場合もある.本研究では,周波数帯によって歪みが発生する音圧が異なるということに着目し,入力信号を周波数領域で任意の帯域に分割し音圧の制御を行う手法を提案する.そして,計算機シミュレーションと,聴感によるノイズの主観的評価から提案手法の有効性を示す.
ハウリングを抑圧するためにノッチフィルタを用いて特定の周波数を減衰させるシステム等が提案されている.このシステムでは,超音波を用いてスピーカとマイクロフォン間の距離を推定し,そこからハウリング周波数の候補を求め,それらの周波数をノッチフィルタにより除去している.ハウリングは一つの周波数成分が増大する共振現象である.そのため,すべてのハウリング周波数を除去するためにノッチフィルタを縦続接続する.しかし,ノッチフィルタを縦続接続することにより出力音質が劣化するという問題がある.そこで本論文では,誰にでも簡単に扱え自動でハウリング周波数を除去する適応フィルタを用いたハウリングキャンセラを提案している.このシステムでは,適応フィルタによりハウリングの原因となっているエコーを推定し,エコー除去を行うことでハウリングの抑圧を行っている.提案したシステムを用いて,計算機シミュレーションを行った結果,ハウリング抑圧が行えていることを確認した.
プロジェクト研究
原音場の特性を異なる空間で再現するためには,伝達特性の影響を考慮しなければならない.スピーカを用いた音場再生システムであるトランスオーラルシステムは受音点で伝達特性の影響を受ける.一般に1つのスピーカから発せられた音は左右の耳に2つの異なった伝達経路をとる.1つのスピーカでは1つの補正フィルタに対する処理しか行うことができず,複数の伝達経路からくるそれぞれの伝達特性を補正するにはその数だけスピーカが必要になり制御系が複雑になる.この問題に対して,1つの補正フィルタで2つの伝達経路を制御する多入力信号補正システムが浜崎らによって提案された.このシステムはクロストーク成分が対称である理想的な環境の下で有効性が確認されている.しかし,受聴者が移動した時等,理想的ではない環境でのシステムの有効性は保証されていない.本研究では,左右のクロストーク成分の異なる環境における伝達関数を想定し,左右のクロストーク成分の違いが大きい程原音に対する再現音の精度が減少することを計算機シミュレーションにより確認している.