篠森研究室(人間情報処理研究室)の専門分野を一言でいうとすれば,視覚心理物理学ということになります.これは心理物理学的手法により人間の視覚系について研究するものです.
心理物理学的手法というのは,制御された条件下における視覚刺激の持っている物理量(光の波長分布や光の強さ)と,それに対する視覚的知覚および認識に依存して生じる心理学的応答(例えば,色の見え方や光が見えるかどうかなど),との関連を測定する研究方法です.
その際に,刺激の物理的特性を入力とし,情報処理後の人間の応答を物理量で置き換えたものを出力とすることから心理物理学の名が付きました.入力と出力からブラックボックスの中身を推定して,内部の人間情報処理のモデルを作成すると考えてもらうと良いと思います.この方法により,人間の視覚系について,解剖や電極を差したりするような破壊的な方法(侵襲的手法といいます)によらず,人間の視覚系について調べることが出来ます.
もう少し具体的に研究分野をあげると,特に色覚や視覚の時空間特性などの研究に力を入れています.色覚の研究では,2つの色がどのくらい違うと色の違いがわかるという測定実験をさまざまな色や条件で調べることにより,網膜から大脳に至るまでの色の処理過程を明らかにしていきます.
また時空間特性の研究では,人間はどのくらいの早さで刺激を処理できるかを調べています。例えばテレビは60Hzで点滅していますが,我々の時間分解能よりもはるかに早いので,我々人間はずっと映像が出続けている様に感じます.それら人間の特性を知ることによって,人間が使うのにちょうど良い視覚情報を作成する指針を得ることが出来ます.
我々は情報システム工学科におりますが,その「情報システム」に含まれるのは,コンピュータだけではありません.人間もまた,外界の情報を生態的センサーで取り込み,情報を処理し,加工し,利用して自らの行動に役立てているという「情報システム」です.
視覚の場合は,眼というセンサーで得た光情報を処理して外界の情報を獲得するということになります.しかし,コンピュータなどと異なり,人間の情報処理機構はまだほとんど明らかになっておりません.これは脳の機構がほとんど明らかになっていないこととも関連しています.
人間が利用する外界の情報の80%以上は視覚系によるものです.(残りのほとんどは聴覚系を利用する言語情報です)従って視覚系の研究を行うことは,最終的に脳のメカニズムを明らかにするというアプローチの一環になります.また人間の情報処理機構は,コンピュータなどで実現する情報処理アルゴリズムなどの良好なモデルになり得ます.なぜなら最終的に情報を利用するのが人間である場合,人間の情報処理方法と類似した情報処理を計算機で行うと人間により親和的なものになりうるからです.
もっとも脳研究自体はまだなかなかそこまで達していませんので,現状はヒューマンインターフェースや照明,CGなど,より直接的な分野に応用されています.
私の研究としては,脳内におけるさまざまな視覚系情報処理の中から特に色覚に焦点をあてて研究しています.最近の私個人のテーマは次のようなものです.
1. 人間視覚系における色覚情報処理機構の解明とモデル化
2. イメージおよび物体の認識における輝度・色情報の寄与と相互作用
3. 視覚系における加齢の効果の検証
これらの最終的な目標は,網膜上の各種光受容体細胞の光感度から,色覚の各構成要素の脳内励起量を導出するモデル構築を手がかりに,脳内おける情報分離・統合を解明をすることです.
視覚系といってもその分野は,色,明るさ,立体視,運動視,物体の知覚と認識,錯覚など幅広い分野に別れています.研究室配属の学生の研究については,私の専門分野にとらわれず,これらのさまざまな分野での活動を推進しています.
2000年度配属の学生の研究テーマ次のようなものでした。
* 視覚系の輝度時間応答関数の測定
* 視覚刺激に対する判断時間の測定
* 順応刺激によって分離された色チャンネルの特性
* 黒み誘導下での色弁別能力の測定
* 白黒刺激における明るさ対比と誘導効果
* 影による奥行き知覚に与える重なりの効果
これらの研究は全て日本視覚学会で発表されました(西村さんの研究は私が発表しました).
卒業研究生(1期生)(発表順)
- 異なる空間周波数刺激での輝度インパルス応答関数
- 篠森敬三・平山正治
日本視覚学会2001年冬季大会 (平成13年1月22-24日,工学院大学,新宿区,東京)
[Vision(The Journal of Vision Society of Japan), Vol. 13, No.1, pp76, 2001.]
- 異なる判断条件における刺激応答時間
- 東野泰幸・篠森敬三
日本視覚学会2001年冬季大会 (平成13年1月22-24日,工学院大学,新宿区,東京)
[Vision(The Journal of Vision Society of Japan), Vol. 13, No.1, pp83, 2001.]
- 前刺激による色順応後の色弁別
- 深田良尚・篠森敬三
日本視覚学会2001年冬季大会 (平成13年1月22-24日,工学院大学,新宿区,東京)
[Vision(The Journal of Vision Society of Japan), Vol. 13, No.1, pp70, 2001.]
- 周辺光による黒み誘導下での色弁別
- 篠森敬三・西村有加
日本視覚学会2001年冬季大会(平成13年1月22-24日,工学院大学,新宿区,東京)
[Vision(The Journal of Vision Society of Japan), Vol. 13, No.1, pp61, 2001. ]
- 同化現象における刺激形状変化のおよぼす影響
- 中山高明・篠森敬三
日本視覚学会2001年冬季大会 (平成13年1月22-24日,工学院大学,新宿区,東京)
[Vision(The Journal of Vision Society of Japan), Vol. 13, No.1, pp78-79, 2001.]
- 影の重なりや見え方が影による奥行き知覚に与える効果
- 阿河智紀・篠森敬三
日本視覚学会2001年冬季大会 (平成13年1月22-24日,工学院大学,新宿区,東京)
[Vision(The Journal of Vision Society of Japan), Vol. 13, No.1, pp82, 2001.]
2001年度配属の学生の研究テーマ次のようなものでした.
* 視覚系の色時間応答関数の測定
* 他の目に対する順応刺激によって色チャンネルの分離をめざす
* 異なるCRT設定条件下における色恒常性
* ドライビングにおける判断の時間とそれに与える要因
これらの研究は全て日本視覚学会で発表されました(下山君の研究は院生の平山君が発表しました).
卒業研究生(2期生)(発表順)
- 異なる空間周波数刺激での色インパルス応答関数
- 平山 正治・下山孝士・篠森敬三
日本視覚学会2002年冬季大会(平成14年1月21-23日,工学院大学,新宿区,東京)
[Vision(Journal of the Vision Society of Japan),vol. 14, No 1 (2002) pp.32](院生 平山君と共著)
- 外側膝状体以降における色順応効果
- 梶原誠・篠森敬三
日本視覚学会2002年冬季大会(平成14年1月21-23日,工学院大学,新宿区,東京)
[Vision(Journal of the Vision Society of Japan), vol. 14, No 1 (2002) pp.51]
- 色の見えにおけるCRTディスプレイの色温度やカラーバランスの影響
- 清水泰智・篠森敬三
日本視覚学会2002年冬季大会(平成14年1月21-23日,工学院大学,新宿区,東京)
[Vision(Journal of the Vision Society of Japan), vol 14, No 1 (2002) pp.44]
- ドライビングシュミレーションにおける交差点での判断
- 久武慎也・篠森敬三
日本視覚学会2002年冬季大会(平成14年1月21-23日,工学院大学,新宿区,東京)
[Vision(Journal of the Vision Society of Japan), vol 14, No 1 (2002) pp.50]
研究室配属学生(2002年度)
- 画像再認課題において正確性と高速応答を考慮した刺激呈示方法
- 東野泰幸・篠森敬三 (修士論文)
- 輝度インパルス応答関数による視覚時空間周波数チャンネルの分離
- 平山正治・篠森敬三(修士論文)
- Change in Shape of Impulse Response Functions in Difference Spatial Frequencies
- Masaharu Hirayama and Keizo Shinomori
Second Asian Conference [Vision], p.46, 2002
- Spatial Frequency Dependence of the Luminous Impulse Response
- Masaharu Hirayama and Keizo Shinomori
San Francisco Fall Vision Meeting, pp.10, 2002
- 時間的な等輝度色変化刺激を用いたR-Gチャンネルの独立性の検討
- 深田良尚・篠森敬三
修士論文
- 鋸状順応刺激と鋸状テスト刺激を用いたR-G反対色チャンネルの独立性の検討
- 深田良尚・篠森敬三
日本視覚学会2003年冬季大会(平成15年1月20-22日,工学院大学,新宿区,東京)
[Vision(Journal of the Vision Society of Japan),vol. 15, No 1 (2003) pp.46]
- Separation of Red and Green Channels with Sawtooth Adaptation Stimuli
- Yoshinao Fukada and Keizo Shinomori
Second Asian Conference [Vision], p.81, 2002
- 色と形の同時変化が記憶再認能力に与える影響
- 賀来途直・篠森敬三
日本視覚学会2003年冬季大会(平成15年1月20-22日,工学院大学,新宿区,東京)
[Vision(Journal of the Vision Society of Japan),vol. 15, No 1 (2003) pp.61]
- CRTディスプレイでの異なる色温度間での恒常性に対して錐体順応の与える影響
- 谷口沙織・篠森敬三
日本視覚学会2003年冬季大会(平成15年1月20-22日,工学院大学,新宿区,東京)
[Vision(Journal of the Vision Society of Japan), vol. 15, No 1 (2003) pp.54]
- 事前注意刺激とそのタイミングが色の再認に与える影響
- 檜垣陽平・篠森敬三
卒業論文
研究テーマについては,本人が希望すれば私から問題提起をする場合もありますが,基本的には,自分で問題を発見して,私と協力しながら問題を解決するという方式で卒業研究を行っています.つまりテーマ自体を学生自身で考えるか,あるいは大きな枠組みのみを提示して,そこから具体的な問題を考えてもらう様にしています. |