2010年度 修士論文
近年,音声に臨場感を与える技術として音を録音した環境の特性を再現する音場再生技術が注目されている.しかし,音場再生処理には高性能な処理装置が要求される.そのため,音場再生を容易に利用することができない.そこで,この音場再生技術をネットワーク分散処理で行う手法が提案されている.ネットワーク上のサーバで音場再生処理を行うことで,リスナーは最低限の処理で音場再生処理を利用することができる.しかし,従来の手法はサウンドデバイスやTCP/IP ネットワーク通信などで発生する可能性のある遅延による影響を考慮しておらず,遅延の影響を大きく受けてしまう.本研究では,安定した音場再生を提供するための新たな分散処理手法を提案している.提案手法では,新たに遅延対策としてネットワーク通信による遅延の感知とサウンドデバイスによる遅延の感知,また,システムが継続してより安定したフィルタ推定を行うための対策を講じている.また,計算機シミュレーションを行い,誤差の平均と分散を示すことで,従来手法より安定した精度の音場再生処理であることを示している.
2010年度 学士論文
携帯電話で音楽を聞く場合,音が小さいため聞こえにくい,またはテレビやミュージックプレイヤで聞く音声と比べて音質が異なって聞こえることがある.これらの原因として,携帯電話はスピーカのサイズが非常に小さいため定格入力の限界が低いことが挙げられる.したがって,携帯電話の音を大きくするためにアンプの出力を上げることができない.また,携帯電話で音楽を再生した場合,音が鳴りにくい周波数帯域があるため音質が異なることが挙げられる.そこで,従来再生される大きさより大きく聞こえるように対象の音声を聞きやすくする音声強調方法がある.しかし,この方法では携帯電話のアプリケーションによって有効でない場合がある.本研究では,小型スピーカに適した音声強調を行い,対象のアプリケーションの音が従来再生される大きさより大きく聞こえるようにする.提案手法では,携帯のスピーカーの特性から目的のアプリケーションごとに元の信号に対して,音がより大きく聞こえるような処理をする.設計したディジタルフィルタが正常に処理できていることを計算機シミュレーションによって確認している.また,処理した音声を被験者実験により評価し,従来再生される音より大きく聞こえることが確認できたためシステムが有効であることを確認している.
テレビ会議など,複数の音源が存在する空間において目的の音のみを受音する方法として,マイクロホンアレイの利用が挙げられる.マイクロホンアレイでは目的音源の正確な位置情報が必要となるため,音源の到来方向の推定や平面上における音源位置を推定する方法が提案されている.しかし,これらの方法では3次元空間における正確な音源位置を推定することができないという問題がある.そこで,本論文では,音源の3次元位置情報を得ることを目的とし,4本のマイクロホンを用いた相互相関法の有効性を確認している.相互相関法では,相互相関によって求めた各マイクロホン間の音の到着時間差と各マイクロホンの位置情報を用いて連立方程式を立てることができ,この連立方程式を解くことによって音源の位置を推定している.実験によって音源の3次元位置を推定することが可能であることを確認したが,実際の音源位置との誤差が大きく,正確な音源位置を推定できていない場合があった.この推定誤差について検証,考察を行い,音の到着時間差の誤差が推定結果に大きな影響を及ぼしていることを確認している.また,計算機シミュレーションにより,マイクロホン間隔を広げることで,音の到着時間差の誤差による推定結果への影響を少なくできることを示している.
弦楽器,管楽器といった異なる種類の楽器で同じ音階を鳴らした時,楽器の音の鳴らし方の違い,材質の違いによって音色が変化し,音は異なって聴こえる.しかし,2つの同じ種類の楽器で,同じ音階を鳴らした時にも,材質の違い,部品の形状といった固有の特性により音の大きさが変化し,音が異なって聴こえる.本論文では,異なる特性を持つ楽器の音質再現法を提案している.楽器には特性の異なるエレキギターを2本使用した.まず,異なる特性により,楽器の音にどのような違いがあるのかを調べた.その結果,ギターの振動の大きさが異なり,残響時間に違いが出ることが明らかになった.そこで,振動を吸収する効果のある制振材をギターに貼りつけた.その結果,音質に変化が確認できたが,音質を再現することはできなかった.そこで,適応信号処理を使った.この方法では,ある時間における2つの楽器の音の誤差を算出し,その誤差を最小にするようフィルタの係数を更新することにより音質再現を行っている.適応信号処理の結果,音質再現の効果が制振よりもあることを確認した.しかし,実際の演奏に使うには遅延などの問題が存在することがわかった.
プロジェクト研究
クリッピング歪みの予防として,コンプレッサやリミッタ,自動利得制御を扱いクリップの起こらない振幅に調整する方法がある.コンプレッサとリミッタはあらかじめ,しきい値を設定することでしきい値以上の振幅が入力された場合にその振幅を圧縮する.自動利得制御は,平均出力信号レベルをフィードバックすることで利得が入力信号レベルに対して適切な範囲になるよう調整する.しかし,あらかじめ設定した値に対し予期せぬ過大な振幅の入力により,コンプレッサやリミッタ,自動利得制御を扱った場合でもクリップが起こってしまい,クリッピング歪みが発生してしまう場合がある.クリッピング歪みの発生した音声は音割れやノイズのような人間にとって不快な音声となる.一般的には,クリップの起こった音声はコンプレッサ,リミッタ,自動利得制御の調整をし直し,取り直す.しかし取り直しの利かない生録音などではクリッピング歪みの発生したままの音声となってしまう.そこで本論文では,クリップした音声に対しクリッピング歪み軽減法として近似補間を用いてクリップ部分を修正しクリッピング歪みの軽減を行い,異なる音声でも有効に補間されるかの検証,クリッピング歪みの軽減の比較,原音との比較,演算量の比較を行った結果,近似補間によるクリッピング歪み軽減の有効性を確認した.
クリッピング歪みの予防として,コンプレッサやリミッタ,自動利得制御を扱いクリップの起こらない振幅に調整する方法がある.コンプレッサとリミッタはあらかじめ,しきい値を設定することでしきい値以上の振幅が入力された場合にその振幅を圧縮する.自動利得制御は,平均出力信号レベルをフィードバックすることで利得が入力信号レベルに対して適切な範囲になるよう調整する.しかし,あらかじめ設定した値に対し予期せぬ過大な振幅の入力により,コンプレッサやリミッタ,自動利得制御を扱った場合でもクリップが起こってしまい,クリッピング歪みが発生してしまう場合がある.クリッピング歪みの発生した音声は音割れやノイズのような人間にとって不快な音声となる.一般的には,クリップの起こった音声はコンプレッサ,リミッタ,自動利得制御の調整をし直し,取り直す.しかし取り直しの利かない生録音などではクリッピング歪みの発生したままの音声となってしまう.そこで本論文では,クリップした音声に対しクリッピング歪み軽減法として近似補間を用いてクリップ部分を修正しクリッピング歪みの軽減を行い,異なる音声でも有効に補間されるかの検証,クリッピング歪みの軽減の比較,原音との比較,演算量の比較を行った結果,近似補間によるクリッピング歪み軽減の有効性を確認した.